
水道の基礎知識漏えい電流防食・電食対策
鉄道や変電所、高圧送電設備などの近くに金属製の水道管を埋設すると、周囲の電気設備から発生する漏えい電流( stray current )が配管を通って流れ込み、電気分解作用によって金属が侵食されることがあります。この現象を電食(でんしょく)とも呼び、配管の局部腐食・漏水・破裂の原因になる非常に重要な防食テーマです。この記事では、漏えい電流による侵食の仕組みと防止策について、現場実務の観点からわかりやすく解説します。
漏えい電流による侵食とは、鉄道・変電所・電気設備などから地中へ漏れた電流が、金属配管を導体として通過し、その流出部(電流が外へ出る側)で電気分解作用による腐食が起こる現象です。電流が入る側(流入部)ではほとんど変化はありませんが、出る側(流出部)では鉄がイオン化して失われ、長期間にわたると管壁が薄くなり漏水や破裂を引き起こします。
・電流が配管へ流入→流出する際、流出側で電子を失う反応(酸化)が発生
・Fe → Fe²⁺+2e⁻(鉄が溶け出す反応)
・長期的には局部腐食・ピンホール・管破断に発展
・鉄道・地下鉄・LRT・トロリーバスなど直流電源設備が近接している
・変電所・送電線の接地電流(アース電流)が流れる地帯
・金属配管・鋼製マンホールなど導体構造物が多い場所
・湿潤・高導電率の土壌(地下水位が高い区域)
・電車の帰線電流が地中を経由して管路に流入
・レールに近い位置で流出し、管体に多数の孔食が発生
・3年で漏水、管交換に至るケースも
・接地電流が地中へ広がり、金属配管・マンホールが電食
・管外面に黒褐色の腐食生成物(酸化物層)を確認
・絶縁継手追加で電流経路を遮断し改善
最も効果的な方法は、管路の途中に絶縁継手(insulating joint)を設け、電気的連続性を遮断することです。これにより管体の電気抵抗が増大し、漏えい電流の流入・流出を抑制できます。
・ボルト・フランジ間に絶縁ガスケット・絶縁スリーブを挿入
・絶縁抵抗値を定期的に測定し、劣化を早期発見
・地中設置時は防水型絶縁継手を使用
管路の一部にポリエチレン管(PE)やポリブテン管など非金属配管を設けて電気的に分断する方法も有効です。異種金属接触による電位差を防ぎ、漏電経路を遮断します。
直流電源を使用する鉄道や送電施設では、接地抵抗測定や漏電電流のモニタリングを行い、必要に応じて排流装置・犠牲陽極を設置して漏れ電流を制御します。
・ボルト部に絶縁ブッシュ・スリーブを正確に挿入
・フランジ面の清浄・平滑性を確保
・漏れ電流が再び迂回しないよう接地配線との関係を整理
・絶縁継手周囲は防食塗装・PEスリーブなどで外面防食も併用
絶縁継手の性能は経年劣化や湿潤環境によって低下します。定期的に絶縁抵抗値・漏電電流値を測定し、基準値を下回る場合は交換を検討します。鉄道・変電所に近い地域では、年1回以上の測定が推奨されます。
漏えい電流による侵食は、目に見えない電気作用によって金属管を腐食させる危険な現象です。電気的分断・絶縁・外面防食の3要素を組み合わせることで、安全で長寿命な配水管網を維持することができます。
電気・配管・土壌の三要素を理解し、計画的な絶縁と防食を行うことが、長期耐用年数の確保につながります。

